結論から言うと、先の報道は誤報であった。しかし、筆者(本ページ管理者)は誤報が発覚するよりも以前に後半に引用した、国立社会保障・人口問題研究所のデータを比較しており、その信憑性を疑っていた。(当時のTweetのまとめ)
統計データをキチンと読み、他のデータと比較することで、本報道が非常に疑わしいことは、誤報が明白となる以前から、注視できたはずである。
問題点1 日本家族計画協会発表データ掲載による毎日新聞の誤報
毎日新聞は、2月5日に以下のように報道した
「性交経験率が5割を超える年齢は「29歳」で、08年の「23歳」、10、12年の「26歳」と比べて一気に高年齢化した。一方、女性は「28歳」で、過去の調査結果(24〜27歳)より高かったが、男性ほどの変化はなかった。」
��ソース: インターネットアーカイブ記事 他引用記事)
しかし、2月19日に以下の用に文章を書き換えて(訂正して)いる。
「性交経験率が5割を超える年齢は男性で「20歳」、女性「19歳」だった。女性は10年、12年と比べ変化がなかったのに対し、男性は1歳高くなった。また、7割を超えるのは男性が「24歳」で、それまでの21歳より3歳高くなっており、女性の「22歳」と比べても性行為が消極的になってきていることがうかがえる。」 (魚拓)
訂正の理由は以下の通りである。これは記事の末尾に現在記載されているものである。
「【訂正】
「この記事に関し、一般社団法人日本家族計画協会が、性交経験率のデータ集計に誤りがあったと18日夜、発表しました。この発表を受け、「今回、特に目を引いたのが、29歳以下の男性の性行動を巡る事情だ。性交経験率が5割を超える年齢は『29歳』で、08年の『23歳』、10、12年の『26歳』と比べて一気に高年齢化した。一方、女性は『28歳』で、過去の調査結果(24〜27歳)より高かったが、男性ほどの変化はなかった。」の段落を取り消し、「性交経験率が5割を超える年齢は男性で『20歳』、女性『19歳』だった。女性は10年、12年と比べ変化がなかったのに対し、男性は1歳高くなった。また、7割を超えるのは男性が『24歳』で、それまでの21歳より3歳高くなっており、女性の『22歳』と比べても性行為が消極的になってきていることがうかがえる。」と差し替えました。」」
つまり、該当する調査において、最初に報道されたような急激な草食化、絶食化など、そもそも発生していなかったのである。
問題点2 統計調査がそもそも有効なサンプル数を満たしていない
該当する調査は全国の16〜49歳の男女3000人を対象に実施し、1134人(男519人、女615人)から有効回答を得たとされている。ここから、男性におけるそれぞれの年代は519/33=15.7人の回答しか得られていないことが分かる。
一般的に、10万人以上を検証する場合1500人以上のサンプルが必要である。
全体の数値を鑑みる場合であっても、1500人の1/3程度のデータしか収集できておらず、統計としての信用度は非常に低い。
「性交経験率が5割を超える年齢は男性で「20歳」、女性「19歳」だった。女性は10年、12年と比べ変化がなかったのに対し、男性は1歳高くなった。また、7割を超えるのは男性が「24歳」で、それまでの21歳より3歳高くなっており、女性の「22歳」と比べても性行為が消極的になってきていることがうかがえる。」(毎日新聞記事引用)
上記考察は、各年代をそれぞれ比較したものである。つまり、それぞれの年代ごとの数値を比較データとして用いているので、それぞれの年齢毎に1500人ずつのサンプルが必要であのに対して、問題点1で示したとおり、1年代あたり15.7人しか回答が得られておらず、全く統計的に意味を成していないのである。
問題点3 (誤報時の)数値データが不自然に変動している
筆者(等サイト管理者)は以下の誤報時のデータ
「性交経験率が5割を超える年齢は「29歳」で、08年の「23歳」、10、12年の「26歳」と比べて一気に高年齢化した。一方、女性は「28歳」で、過去の調査結果(24〜27歳)より高かったが、男性ほどの変化はなかった。」(2月5日報道内容=誤報)
は、統計的に誤っていると第一に考えた。
なぜならば、本調査は2年ごとにデータを更新するものであり、生活様式に関する統計データがここまで頻繁に変化することは無いと考えれるためである。急激に数値が変動する場合、サンプル数が十分に足りず、個々人の個体差がデータとして反映される可能性が高く、先に示したとおり1世代あたりの人数が非常に小さいためである。
結果として、これはそもそも統計データが誤っていたということになるが、このような数値の異常な変動は、そもそもの統計がおかしいという事を疑うきっかけとなろう。
問題点4 利益相反発生の可能性
日本家族計画協会は民間団体であり、性行為補助用のグッズの販売や、性に関する講演会等を行っている。そのため、調査方法や開示に関して、中立性が完全にあるかについて、情報被開示者は慎重になるべきであろう。
上記統計データに対する反例
国立社会保障・人口問題研究所による「第14回出生動向基本調査」
下記調査結果は男女ともに18~34歳の未婚者に限った上で、サンプル数3000人以上を確保した調査である。これは、サンプル数からして前述の調査よりも精度が高い。
このデータは、既婚者を除いたものであるから、実際の性交経験はより高いものと考えられるが、それでも性交経験数は、長期的に見ると1987年、1992年時点よりも上昇しており、草食化が起きているとは言いがたい。 確かに、1997年2002年は性体験が早期化していたことと比較すると遅くなっているものの、急激な下落とは言いがたい。つまり、草食化は発生していないのである。
��出展 http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14_s/chapter2.html#22a)
結論
つまり、毎日新聞・日本家族計画協会が誤報を行ったことに端を発した、絶食化問題は、そもそもが誤ったものであり、国の研究データからも絶食化は起きていないことが明白である。
そのため、現在および今後、絶食化などという報道や言説がある場合、それは印象論に基づくものであると言えるだろう。我々は、具体的なデータや、ソースにあたり、データを比較検討するようなメディアリテラシーを研鑽することが求められ、報道やあらゆる言説を相対化し、社会情勢を鑑みる必要がますます必要であるだろう。
また、そもそもマスコミが騒ぎ立てるような、都合の良いデータはそう簡単に社会統計調査で出るものではない。センセーショナルな統計データが出た場合は、調査が適切に行われているのかについて、きっちりとソースに当たることをおすすめする。そして、そのソースがあったとしても、統計データの推移をみて、明らかにおかしな数値変動があった場合、1)サンプル数が満たしていない 2)サンプルに偏りがある 3)問題設定に問題がある をまず考えねばならない。今回の場合は 4)統計処理にミスがあった であり、私はさすがにそれは無いだろうと考えていたが、これについても考慮する必要があるだろう。
統計の知見や、カンを養うことは、身を守る上でとても大事なので、学ばれることをおすすめしたい。
結果として、訂正後の日本家族計画協会のデータは、国立社会保障・人口問題研究所のデータに近しい結果となったが当然であろう。しかし、依然国立社会保障・人口問題研究所との数値のズレがあるのは、母数が異なるためであると考えられる。
ただ、誤報で報じられたような極端なデータや、極端な変動が見受けられた場合は、そもそもの統計の根本的なミスや、外部要因による擬似相関を疑うべきである。
そして、今回の誤報は、統計処理が誤っているという、致命的なミスを外部に発表することがあるという事を反面教師のようにして公にしたものであり、我々はこういった事柄をあざ笑うのではなく、真摯に受け止めなければならない。
最後に、男性も女性もそれ以外も、印象論に基づく報道に左右されず、あるいは、自尊心を傷つけられる事無く、溌剌として生活できることを望む次第である。
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