みなさんこんにちは。あしやまひろこです。
今般需要があり、契約書の代筆も含めた法務業務を委託できないか?というご相談があり、特定性のある契約書の作成が弁護士法や行政書士法に抵触しないかを確認しました。
結論ですが「事件性がなければ(法律事件でなければ)該当しない」が答えでしたので、この度、代替法律サービスプロバイダー業務を開始することになりました。
さて、なぜ契約文書作成が非弁行為や非行政書士行為に該当しないか?についてですが、まず、有識者(行政)の判断として、令和6年11月22日に、浦和公証センターの金澤公証人より、当該行為は公証人法26条に基づく判断義務の観点から、違法・無効ではないとの判断を得ました。
記述は上記の通りシンプルであり、法律資格を持たない私が
1.経営およびサービス提供に関するコンサルティングサービス
2.経営およびサービス提供に関する法的知見の教示
(訴訟事件に加え、当事者間で既に紛争が発生している事案や、将来紛争が発生する可能性が高い(あるいはほぼ避けられないような)事案(以下「法律事件」という)について除きます。法律事件に関するものを除く契約書面やその素案に対する指摘を含みます。)
3.お客様の依頼に応じた書面・文書の案の作成
(ただし、官公署に提出するもの及び、法律事件に関するものを除く。法律事件に関するものを除く、契約書やその素案、各種サービスポリシー、約款の作成等を含みます。)
という業務を実施することを表明する文書になります。
既に過去の記事でご説明したとおり、こういった文書の認証を公証人に嘱託すると、公証人は公証人法に従って、それが違法・無効であるかを判断しなければなりません。
結果、今回は上記内容は違法・無効ではないとの判断を得ました。
今回の公証人の見解からすると「この内容は違法無効ではないので問題はないのだが、そもそも認証自体せずに業務を実施してもよかったのではないか?」というご意見でしたが、私は「そうはいっても、弁護士などで非弁行為の範疇がちゃんとわからずに文句も言う人がいるので、公的確認を経るのは魔除けのようなものなので……」とお返事しました。
さて、今回の確認は、①法律がらみの相談(事件性のあるものを除く)②契約書の作成(事件性のあるものを除く)、について弁護士法や行政書士法は、無資格者による実施を禁止しているか?がテーマです。これについて、私は公証人に対して次のレターを事前にお渡ししていました。
まず弁護士法については、令和5年8月に法務省大臣官房司法法制部が示した「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について」において、弁護士法72条の禁止する非弁行為とは、① 報酬を得ること、② 法律事件に該当すること、③ 鑑定に該当すること、の3要素を全て満たす場合に限られると示されました。これは、東京弁護士会が示している見解とも一致しており、東京弁護士会は「法律事件」の定義について「訴訟事件に加え、当事者間で既に紛争が発生している事案や、将来紛争が発生する可能性が高い(あるいはほぼ避けられないような)事案」と定義しており、おそらくこの見解は妥当だと思われます。
つまり、東京弁護士会が言語化したようなケースでなければ、そもそも弁護士法72条による抵触はなく、弁護士法的には契約書の代筆は無資格で行ってもよいのです。
一方、行政書士法では行政書士の独占業務として「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする」という法律になっており、下線部の部分が独占であるか?が問題となりえるところでした。
つまり、弁護士法による独占がなくとも、行政書士法によって「その他権利義務に関する書類」は行政書士でなければ作れないと解釈することも可能性的には可能なわけです。
しかし、もしそれが本当だとしたら、行政書士ではない士業は契約書の作成ができないということになってしまいますし、法務省が発表した見解にも行政書士法が記載されていないのは極めて不自然です。つまり、行政書士法における下線部は、官公署に提出する書類作成で副次的に発生する業務について記載しただけのことであり、独占業務と解するべきではないと考えるべきだと考えられます。
そして、今回の浦和公証センターの金澤公証人も、独占業務ではないと判断したことになります。
さて、そうすると士業の独占とは何なのか?という話になります。
各法令の趣旨からすると、次のような整理が妥当だと思われます。
弁護士:紛争解決への介入を独占している
司法書士:登記の代理を独占している
行政書士:官公署に提出する書類の作成を独占している
という話であって、これに該当しない「法務」の仕事は、そもそもどの士業も独占していなかったというのが答えのようです。
ですから、行政書士、司法書士、弁護士は、例えば離婚協議書や企業の一般的な契約書の作成業務をそれぞれすでに行えていたのは、それぞれの士業の独占があるからではなく、そもそもどの士業も独占していなかったから、どの士業も行うことができた、という話だったということのようです。
そして、独占していないということは、士業以外の法務業者が実施しても良いという話になります。
つまるところ、日本の法律周りの業法規制としては、上記に上げた「本当の独占」の範囲以外の一般法務については、代替法律サービスプロバイダー(ALSP)が活動しても、特段の問題はない、という話になりますし、行政書士や司法書士による法務支援は、すでにALSPの一つの形態であったと言えるかもしれません。規制緩和などという話以前に、そもそも規制なんてなかったという話です。
これまで法務の代替が弁護士や士業に限られていると思われていたのは、単なる勘違いだったらしく、AIの進展やその見解を国が表明するにあたって、それが理解されはじめたということのようです。
我々は思い込みに縛られず、もっと自由に活動してよいのだと思います。
余談ですが、皆さんは「婚姻届け」は「届出」と「申請」のどちらだと思いますか?
これはどうやら法学徒や弁護士も勘違いしている人が少なくないようですが、答えは「申請」です(詳しくは『条解行政手続法』などを読んでください)。
ですが、このことは行政書士ならばおおむね正しい見解があるのではないかと思われます。
なぜ一般の法学徒や弁護士が勘違いをしがちで、行政書士が正しい見解を持っている可能性が高いか?なのですが、これはそもそもの業務目的が違うからが答えです。
弁護士は紛争解決のスペシャリストなので、そもそも紛争に関係しない行政システムの内部的な言葉の定義や、行政法上の分類などは知っていなくてもよいので、おそらく気に留めなくても業務は回りますし、むしろこんな些末なことに囚われる必要はないでしょう
一方で、行政書士は紛争にかかわることは出来ないが、行政に対する提出書類のプロなので、行政のシステムには熟知する必要があり、この知識はあったほうがよいもので、基本テキストにも先ほどの区別の話は掲載されています。
つまり、弁護士が最上位でそれ以外はサブの資格である、といった理解は適切ではなく、それぞれが独立の方向性を持っていると解するべきだろうと思われます。
今回はそれに加えて、企業法務のような「法の実務家」はどのような立場であるべきか、という問いを投げかけるものです。
みなさんもよく考えてみてください。
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